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東京地方裁判所 昭和54年(行ク)55号 決定 1979年8月10日

申立人 川西弘

右代理人弁護士 野村孝之

同 高木義明

同 鈴木隆

同 小林正憲

同 近藤誠

同 竹原茂雄

同 鈴木正貢

相手方 東京都知事 鈴木俊一

右指定代理人 坂井利夫

<ほか四名>

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  本件申立の趣旨及び理由は別紙(一)(二)のとおりであり、これに対する相手方の意見は別紙(三)のとおりである。

二  疎明によれば、申立人は、相手方から健康保険法に基づく保険医療機関の指定及び国民健康保険法に基づく療養取扱機関の申出の受理を受けていた診療所「ロイヤルクリニック新宿」の開設者であるところ、昭和五四年五月二三日付をもって右指定及び受理を取り消されたので、当庁に対し右各取消処分の取消しを求める訴えを提起するとともに、その本案判決確定に至るまで該処分の効力を停止する旨の決定を得たこと、ところが、その後相手方所部の東京都民生局保険部長が昭和五四年七月二一日付で申立人に対し、「保険医療機関としての指定効力の期間満了について」と題し「貴医療機関に対する健康保険法第四三条の三第一項の規定に基づく保険医療機関の指定については、同条三項の規定によりその効力が昭和五四年七月二〇日をもって満了したので、念のため通知します。」と記載した文書を送付したこと、そして、爾来、相手方は申立人を保険医療機関として取り扱わないとの態度をとっていることが認められる(以下、相手方の右文書送付及びその後の行為を一括して「本件行為」という。)。

三  ところで、健康保険法(以下「法」という。)四三条の三第一項の規定に基づく保険医療機関の指定は指定の日から起算して三年を経過したときに失効するものであり(同条三項)、右三年の期間が経過したにもかかわらず、新たな申請とこれに基づく新たな指定を要せずして当然に先の指定の効力が存続すると解すべき根拠はない。新たな指定の際における運用の実情がたとえ申立人主張のとおりであったとしても、右の基本的関係には変わりはない。そうであるとすれば、相手方の本件行為も右のごとき法律上の関係を明らかにしたものにすぎず、それ自体によって直接申立人の権利義務に変動を生ぜしめる法的効果を有するものではないというべきである。要するに、申立人が主張するような「相手方が申立人に対する保険医療機関の指定が昭和五四年七月二〇日をもって期間満了により失効したとして同月二一日以降申立人を健康保険法四三条の三第一項に基づく保険医療機関の指定のない診療所として取扱っている処分」なるものは、抗告訴訟の対象たりうる行政処分であるということはできないのである。

四  もっとも、申立人は、申立人のように保険医療機関の指定取消処分を受けその適否を訴訟で争っている場合には、右指定について三年の有効期間を定めた法四三条の三第三項の規定の適用がなく、右訴訟についての判決が確定するまでは指定の効力が失われないと解すべきであるから、相手方の本件行為は、実質的にみると、右指定を取り消し又は撤回する処分であると解すべきである旨を主張する。

しかし、本件の場合、申立人は、保険医療機関の指定取消処分を受けた後に、その効力の停止決定を得てあたかも右処分がなかったと全く同様の法的地位において現実に保険医療機関として診療活動していたものであるから、そうである以上、右処分の取消訴訟を提起しているからといって法四三条の三第三項の適用を免れうる理由はないというべきである。申立人主張のように指定取消処分の取消訴訟が係属中はいつまでも新たな指定を要しないと解することは、取消処分を受けない保険医療機関が法四三条の三第三項により三年の有効期間経過後は再申請をして再度その指定を受けなければならないのに、ひとり取消処分を受けたものだけが有利な扱いを受けることとなり、きわめて不当である。申立人の主張は前提において失当であり採用できない。

なお、申立人は、仮に先の指定の有効期間が満了したとしても、法四三条の三第四項の規定により右指定の更新申請をしたものとみなされるべきであり、相手方の本件行為は右申請を拒否した処分と同視されるべきであるとも主張している。しかし、右拒否処分の効力を停止しても、処分がされなかった状態を生じさせるだけでそれ以上に新たな指定がなされたと同様の積極的な効果を生じるわけではないから、そのような執行停止は無意味であり許されない、といわざるを得ない。また、申立人は、先の指定取消処分の執行停止の効力が本件にも及ぶかのごとくにいうが、そのように解する余地がないことはいうまでもない。

五  以上のとおりであるから、本件申立を却下し、申立費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 岡光民雄)

<以下省略>

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